水色書架

自作の一般向け現代小説を書いています。長編短編をご用意しております。
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勾鱗奇譚 (25)

山の奥へと続く狭い道はミノリがソウシを支えながら二人で並んで歩くにはギリギリだったが、片側の斜面に沿って坂を上っていった。

「悪いな。俺の気まぐれに付き合わせて。」

ソウシは懸命に彼を支えるミノリに気遣って何度も言ったが、へっちゃらだ、気にするなとミノリも何度も返した。やがて、遠目から見えていた霊体の影が通っていた辺りにやってきた。ソウシが立ち止まると、ミノリも動きを止めた。何があるのだろうとキョロキョロしたがもちろん彼女には何も見えない。

「勾玉持ってるよな?」

と、ソウシが確認すると、彼女は落とさないようにバッグに入れたと、たすき掛けにした小さなバッグを示した。ソウシはすでに気配を感じ取っている。身の危険は感じないが、やはり時折霊体が彼ら二人の間近を通り過ぎていく。もっとも斜面に消えたのではなく、ふわふわと斜面を上がっていくらしいのだ。

霊体がやってきた方向、向かう方向とソウシが首を動かし、ふとひらめいたことがあった。そして太陽の位置を確認した。

 ああ、そういうことか。
 そうか。
 じゃあこの先にはきっと・・・。

なぜ一方向に霊体が進んでいくのか納得し、ソウシはまた歩み始めた。と同時にミノリも歩を進めた。すると霊体の一部がミノリにまとわりついてくっついてくるのに彼は気づいた。不完全な丸い小さな霊体だが、木霊によく似て邪気がない。

 ふうん。
 ミノリを慕ってるみたいだな。

全く問題のない霊体の正体をソウシは見透かして、彼女の傍に侍っている霊体をそのままにしておくことにした。もちろん、ミノリには下手に怖がらせないように黙っていた。

再び歩き始めた場所から上り道はゆるくカーブしている。木々が鬱蒼と覆うようになってきた。予測していたとおり、ソウシが昨夜過ごそうとした場所があった。塩を包んで供えていた和紙はおそらく髭の男が拾って処分したのだろうが、斜面には滑り降りたときの痕がまだ残っている。さらに上を見上げれば、急斜面ではあるものの木立の間に草が多く生い茂っていて、滑落したときにはそれらがクッションになったのだろうと推測された。

「ここだな。」

「落ちたのはこの上から?
 スゴイ高さから落ちてきたみたいね。」

ミノリも見上げたが、木立の枝が重なり合って見晴らすことはできなかった。

「じゃあ、この斜面の向こう側に水地神社があるってことよね?」

「そういうことだな。
 方角で言えば神社の・・・」

そこでソウシは口ごもった。さっきの霊体たちの行方と神社の位置を考えたとき、奇妙なことを思いついたのだ。

 変だな。
 俺の思い違いか?

更に上りの坂道を歩み進んでいくと、そこから例の怪しい靄のような霊的な影も漂ってきている。頭上を見ればもっと大きな影本体が確かめられたろうが、今ここで金縛りに合うつもりはない。彼は意識しないよう、前に一歩ずつ足を出すことに専心した。そして、念を押すように彼は言った。

「今更なんだけどさ、
 怖くない?」

「ほんとに今更、ここまで来てそういうこと聞く?
 日の光があるし、朝だし、
 肝試しのときより全然怖くないよ。」

ソウシに問われて、ミノリは元気よく笑い飛ばした。だが緊張はしているのか、ソウシを支えている彼女の手には妙に力が込められているのを感じていた。

さすがに二人三脚のような不自然な歩き方で坂を上がるのは息が乱れ、玉の汗が噴き出していた。やがて林の木が途切れ、広々とした空が広がっているのを確認したとき、そこには目当ての泉があった。

「うわぁ、すてき!
 こんなきれいな場所があったなんて!」

辺りの風景を見回し、思わずミノリが感嘆の声を上げた。晴れた空の下、陽の光を受けて水面はきらきらと輝いている。淵から離れていても底まで見えるほど水は清く透き通っており、泉のところどころで湧水しているのも、小さな魚が泳いでいるのまでわかると興奮気味に彼女は喋った。

ミノリの肩から腕をほどき、彼女を解放してやって、ソウシもぼんやりした視力でぐるりを見渡した。背の高い草に周囲を囲まれていて、道らしい道は泉の淵には他に見当たらない。

 俺がたどり着いたこの辺は、
 龍のレンがいた場所だ。
 ヤエという人は、別の道から辿ってきたはずなんだ。

ゆっくりと痛めている左足を庇いながら、記憶の中でヤエがやってきた方角へと草をかき分けて歩いた。草は生えているものの湿地でずぶずぶとスニーカーが柔らかい土に沈んでいく。転ばないように用心していたが、不意に頭のどこかで、鈴の音が響いた。

しゃん、りぃぃん、しゃん・・・
しゃん、りぃぃん、しゃん・・・

 この音、俺が倒れたときにも聞こえた。
 何だ?

長く余韻を伴う音には催眠性があるのか、ソウシの意識が飛ばされそうになる。

 ダメだ。
 しっかりしろ、俺!

彼自身を励ましながら、ヤエが毎日通ってきていた場所を探り当てようとよろめきながら進んだ。ミノリが後ろからついてきている。ソウシを呼びとめようとして途中で止め、何をしようとしているのか見定めるつもりのようだ。

ソウシが立ち止まった。きっとここに違いないと思われる場所は見つかったのだが、そこから村まで繋がっているはずの道はどこを探しても跡形もない。

 ヤエの時代からは何百年たってる。
 道が塞がったのかもしれないな。

ソウシはがっかりした。明確な目的があったわけではないにしろ、何か謎が解けるものでもあるかと期待していたが、拍子抜けしただけだった。ため息とともに、つい頭上を見上げた。霊体の大きな影が覆っているのを感じた瞬間、ソウシは金縛りにあった。しまったと焦っても遅い。一方で、彼の脳内で響く鈴の音はいっそう高らかになっていった。頭の芯が痺れていく。

「ミノリ」

精一杯の声を出してソウシは近くにいるミノリを呼ぶと、ガクッと膝をついた。あわてて駆け寄ったミノリはソウシに声をかけ、支えるつもりで彼の背に右手を当てた。なんとなく予期していたことだが、彼女の手が触れると金縛りが解ける。しかし、鈴の音だけは止まらなかった。それどころか、今にも魂を抜かれてしまうような朦朧とした気分だった。

「ミノリ、俺、意識がなくなると思う。
 倒れても死んでるわけじゃないから、
 心配しないで、様子見ててくれる?」

目を閉じながらソウシが訴えた。ミノリはおろおろとうろたえ、意識を失った後どうすればいいのか尋ねた。

「もし何か異変を感じたら、
 勾玉をかざして・・・。
 それが守ってくれるはず・・・。」

ソウシの呂律が回らなくなっていた。どんどん意識が遠のいていく。勾玉が果たしてほんとうに守ってくれるかは彼にもわからないが、途方に暮れているミノリを少しでも安心させておきたかったのだ。

ミノリはまだ大きな声でソウシに呼びかけているが、それすらも遠のき、体の感覚も失いつつあった。ただあるのは、

しゃん、りぃぃん、しゃん・・・
しゃん、りぃぃん、しゃん・・・

と、繰り返される鈴の音だけになった。



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※この物語に登場する人物や団体名などは架空のものであり、実在しませんのでご了承下さい。



ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2013/02/22 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)