水色書架

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勾鱗奇譚 (20)

神社の前で撮った画像、河原でバーベキューしたときの画像、宿泊施設の室内での画像など一つ一つソウシは目を近づけて見入った。

「アマノ君、メガネかけてないんだ?」

「ああ、・・・壊れた。」

機械的にソウシが答えると、ミノリは、

「崖から落っこちたときに壊れたの?
 あたし、弁償するよ。」

と、しょげて神妙になった。そんなことはいいと、やはり機械的に返したが、彼は別のことに集中していた。そこにないはずのものを見る霊視だ。普通の人にならケータイの画像におかしなものが映りこんでいるのなどわからないだろうが、ソウシはどの画像にも何かが紛れているのを見つけていた。

河原でバーベキューしたときの画像に最も多く霊体が現れている。学生たちは手にバーベキューの串を持ったままポーズをとっているが、霞の玉が漂っていたり、顔か体のパーツがうっすらと入っている。厄介なことに、画像から霊体がソウシに向かって話しかけてくるのだ。あまりいい死に目ではなかったのか、恨み言や罵りの声が聞こえる。もちろんそれはソウシにだけで、ミノリにはそれらを見聞きすることはできないが。

 ほとんど地縛霊だな。
 この土地から離れられない霊だし、
 悪影響を及ぼすほどじゃない・・・が・・・、
 これは・・・。

目にとまったのは女子ばかりで写っているもので、全体が霞に覆われているように見えた。そしてそれが良くないものだと彼は認めた。画像から浮かび上がってくるのは、石というイメージだった。

「ケータイで撮ったほうがみんないい表情するのよね。」

暢気にミノリはおにぎりの次にカレーパンを食べながら言った。ソウシはそのイメージが何を意味するのか考えていた。そして、

「なぁ、バーベキューをした河原で、
 石を拾ったりしたのか?」

と、顔を上げてミノリに振り向いて尋ねた。

「うん。
 この辺はパワースポットだから、
 ご利益があるかもって誰かが言い出して、
 形の良さそうな小石を拾って持って帰ったわよ。
 どうして?」

ソウシの勘が当たった。

「河原の石なんか拾うんじゃねえよ。
 やばいもんがあるんだぞ。」

「やばいもの?
 何、それ。」

ミノリのパンを持つ手が止まった。

「川で溺れた人や自殺した人がいると、
 川の石に念が残ることがあるんだよ。」

「やだ。怖いこと言わないでよ。
 お化けが宿る石なの?」

叱りつけられて急にミノリは、豪快に食べる様子とは対照的に女の子らしくびくびくし始めた。ソウシは、目元までかかる前髪の下で眉をひそめた。”お化け”という言い方が好きではないのだ。念を残すほどの強い未練をもつ霊体が哀れでならないからだ。しかし、迂闊にそれらに同情はできなかった。心の隙をついて憑かれるのを彼はよく知っている。

念の残った石を持っていることで邪気が漂っていると感じたソウシは、今度はマドカを特にじっくりと見た。正確に言えば、マドカの周囲に漂う妖しい靄だ。すると急に生臭い匂いを感知した。ミノリの持ってきた食べ物の匂いではない。嗅覚による匂いではなく、霊視を通じた感覚だ。間違いなくミズチと同じ匂いだと直感した。

「マドカも石を拾って持ってるのか?」

画像を睨みながらソウシが言うとミノリは頷いた。

「石を持ってる奴らにすぐ捨てるように言ってくれ。
 すぐにだ。」

ソウシが気色ばんで言ったが、この山の中ではケータイの電波が微弱で途切れがちになるため繋がらないとミノリは答えてから、

「そんなに危ないの?
 じゃ、これも捨てたほうがいいの?」

と、おそるおそるバッグから石を取り出して尋ねた。丸みのあるややV字型をした白っぽい石だった。ソウシが手に取って吟味したところでは、邪気はまったく感じなかったし、むしろ清らかだった。

「大丈夫みたいだな。これは。」

そう言ってミノリのぽっちゃりした手に返してやると、彼女は嬉しそうに、

「よかった。これほら、ひよこみたいな形で可愛いでしょ。
 ペイントしようかと思って。」

と、大事そうにバッグにしまった。そして、

「ねぇ、アマノ君って、ひょっとして・・・」

と言いかけてから、ふと何かに気をとられて黙った。ソウシはソウシでケータイの画像を再び調べていたが、ミノリが目をやった方へと目を向けた。

「それ、キレイだね。
 アマノ君の?」

指差したのは勾玉だった。

「触ってもいい?」

「いや、これは俺んじゃないから。」

ちらりとソウシは離れたところにいる髭の男の様子を窺った。存在を忘れていたが、ずっとミノリとソウシの会話を聞いていたはずだ。しきたりに厳格そうな男だけに、今にも怒鳴るのではないかと危惧したが、睨みをきかせているだけで、触ってはいけないわけではなさそうだった。

「あの、見せてもいいですか。」

ソウシが念のために尋ねた。無愛想な男だが、れっきとした命の恩人で、彼の世話を焼いてくれたのだ。機嫌を損ねたくはなかった。男は返事の代わりにミノリに、

「あんたは柔道でもやってるのか。
 ただ体がでかいだけではなさそうだな。
 筋肉質だ。」

と訊いた。ミノリはまさしく柔道部員だと答えた。

「そうか。ならいい。」

男は勾玉を見せる許しを与えた。ミノリには勾玉の意味が分かっていないので、横柄で失礼な偏屈親父だと思ったようだが、ソウシから勾玉を手渡されると包み込むようにして受け取った。緑色でところどころ乳白色の筋が浮いて見える、重みのある勾玉を慎重に眺めた。

「筋が鱗みたいに細かく入ってるのね。
 緑色のお魚みたい。」

と、ミノリはうっとりと呟いた。

そのときであった。不意に聞き覚えのある禍々しい声がソウシの脳内に響いた。

「ええい・・・いまいましい・・・。」

男とも女とも区別のできないこの声の主は間違いなくミズチだ。片手に握っているケータイからその気配が強くなってきた。ソウシは目を凝らした。ケータイ画像に写っているマドカにまとわりついていた靄がだんだん薄れていく。

 浄化されてる!
 でも、どうして、・・・突然・・・。

疑問が湧いたと同時に理由もわかった。

 ミノリの手にある勾玉の影響だ。

泉でヤエが禊をしていたときの清らかな気が溢れてくるのを感じた。その気がミズチの邪な気を清めたのだと直感した。


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※この物語に登場する人物や団体名などは架空のものであり、実在しませんのでご了承下さい。

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2013/02/07 11:11 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)