水色書架

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勾鱗奇譚 (6)

長い石段を男女の学生が小さなライトの光を頼りに上っていった。ソウシは列の一番後ろを歩く。叢で鳴く虫の音より背後から水量の多い川の流れる音のほうが、静寂の中で際立って聞こえていた。怖いだの、不気味だのと口では言いながら、皆どこか興奮気味だ。日のある時間に歩いたときより石段が長く感じる。辺りをライトで照らしても木立があるばかりで、明かりに反応した蛾か何かの虫が飛び回り、女子たちを驚かせていた。それを他の者がからかい、また、怖がらせようとライトを顎の下から当てて、お化けの真似をするなどして騒ぐ。

当初の予想通りにならなかったのは、怖さのあまり男に抱きつくのでなく女同士でいっそう塊になるのと、脅かされたミノリが思わず男を突き飛ばすことだった。

いよいよ大きな鳥居の前まで上がってきたとき、ソウシは、

「さぁ。もういいだろ。
 帰ろうぜ。」

と声をかけた。暗闇と静けさで十分、ゾクゾクするようなスリルを味わったはずだ。橋から石段を上がった神社までの間は、ソウシが恐れていたようなことはなかった。神域なのだから当然といえば当然だが、ここの背後の山からできるだけ早く遠く離れたかった。

しかし、男子学生の一人が、

「なぁ、こっちにも道があるぞ。
 ちょっと見てみない?」

と、ライトを照らして示した。細い横道が奥深い闇の向こうへと続いている。昼間見たときにはさしてどうとも思わなかったが、夜ともなると妄想が膨らむせいか薄気味悪さが増して、女たちは本気で怖がり始めた。

ここでやめておけばよかったのだ。しかし、男たちは調子に乗って、何かあったらすぐ引き返せばいいと強引に誘った。断わり切れずに渋々女子学生たちは従ったようだ。ソウシが止めても誰も聞いていなかった。

男がまず先頭になって、男女交互に列になって進んだ。ソウシはついていくのを躊躇った。横道に一歩踏み出したときに、嫌な感覚がしたからだった。

 石段までが神域なのか。
 じゃあこの横道の先は、
 神域の浄化に影響されてないってことか。

足を引っ張られる感覚がある。下から何かが這い上がってくるような気配がある。だが、他の者たちは気づかないのか、どんどん先へ進んでしまって懐中電灯の光も届かないほど離れていた。

仕方なくソウシも彼らの後を追った。小型の懐中電灯ではさほど遠くまでは照らせない。ゆるやかに上り坂になっている道は、ずいぶん石段から離れて奥まで続いている。だいぶ遅れをとっていたのか、ようやく人影を見つけたとき、男女の入り混じった悲鳴を耳にした。戻ろうとしたのか、ソウシにぶつかった男子学生の顔を間近に見ると、見開いた眼で蒼白な表情をしている。

「何があった?」

ソウシが問い詰めたが、言葉にならないらしい。ようやく聞き取れたのは、

「目玉が・・・光ってた。
 いっぱい・・・。」

ということだった。その後からもぞくぞくと戻ってくる。女の子は取り乱してまだ黄色い声をあげ続け、ライトを手にしているソウシにしがみついた。

「とにかく早く石段のとこまで戻れ。」

ソウシは他のみんなに道を譲って、人数を数えた。彼を除いて6人しかいない。マドカやミノリもいないことがわかると、

「おい、他の奴はまだ奥にいるのか。」

と声を荒げて尋ねたが、逃げてくるのに精一杯で誰がいなくなっているのか気づいていないようだった。冷たいものが肩に触れただの、顔みたいなものがこっちを見てたとか、喚くだけだ。パニックを起こしている連中を石段で待たせているのも危なっかしいと考え、ソウシは彼らに早く宿泊施設に帰るように命令した。それからライトをしっかり照らして、彼一人奥へと進んでいった。

薄気味の悪さがますます増していく。ソウシはメガネを少しだけずらして、裸眼で周囲を見回してみた。鳥肌が立った。そこらじゅうに怪しげな霞の玉が浮かんでいる。そして彼の前方を阻もうとするように、飛び交い始めた。できるものなら彼自身もこの場から逃げたかった。関わりたくない気持ちが強かった。だが、マドカたちを放って逃げることもできない。

「りん、ぴょう、とう、しゃ、・・・」

ソウシはメガネを元通りにかけ、九字を唱えながら奥へと向かった。昔、彼を可愛がってくれた祖父に教えてもらった護身法だ。もしもの際にはこれで逃れるようにと。どれだけ効果があるかわからないが、一心に彼は念じた。

女の甲高い声が聞こえる。マドカだとわかって、声のする方に駆け寄った。

「大丈夫か?
 いったい・・・。」

ソウシが叫んでマドカの傍まで行くと、ミノリが先頭に立って歩いていた男子学生に覆いかぶさるようにして倒れており、ちょうど起き上がろうとするところだった。彼がミノリに手を貸してやると、押さえ込まれていた男も起き上がり、

「痛ぇ・・・。
 いくら柔道部員だからって、
 俺に寝技かけんなよ。」

と、冗談交じりに言い、腰をさすった。ミノリはごめんと呟きながらも、いつもの威勢の良さがない。さすがに怯えているらしい。しかし、男のほうはニヤニヤしているところを見ると、そういうことかとソウシは急に合点がいった。どうせライトを操って、お化けがいるとか何とか狂言をやったのだろう。緊張状態の中で誰か一人でも騒ぎを起こせばみんなが恐怖を拡大させてパニックになる。

「おまえさ、こんなとこで悪い冗談やめろよ。」

ソウシがぽつりと言うと、

「ちょっとからかっただけだよ。
 まさかあんなに効果があるとはな。」

と、男子学生は悪びれたふうもなく答えた。図星だった。暗闇で木々に光を当てると、不揃いな木肌の形や枝振りが濃い陰影を伴って、人の顔に見えたり、目玉に見えたりするものだ。恐怖感が頂点に達していた者たちが錯覚を起こしやすいのも当たり前だった。

元来た道を辿り始めたものの、ミノリはまだ放心状態で、ソウシのすぐ後ろをとぼとぼとついてきたが、ふと彼女が尋ねた。

「マドカは?」

「え? おまえの後ろにいないのか?」

ライトの光で探ったが、どこにもいない。マドカはライトを持っていないため、暗い道を先に帰ることもできないはずだ。さっきまでソウシの近くにいたはずなのに、一体どこへ行ったのか。彼女の名前を呼んだが返事はない。


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※この物語に登場する人物や団体名などは架空のものであり、実在しませんのでご了承下さい。

ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2012/12/25 10:04 ] 『勾鱗奇譚』 | TB(-) | CM(-)