水色書架

自作の一般向け現代小説を書いています。長編短編をご用意しております。
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作品リスト  [ 『マイビターバレンタイン』 ]

マイビターバレンタイン(1)

幾つかの会社が入っている近代的なビルの玄関から、一日の務めを終えて仕事から解放された群集が夜の街へと吐き出される。その群集の中に、28歳でOLのイワキミサトもいた。ロングコートをしっかりと着込み、ショルダーバッグを肩に掛け、両手はコートのポケットに突っ込んで寒さに肩をすくめ、いつもの帰り道とは違う方向に歩き出した。残業もなく定時に会社を出られるのは久しぶりだったため、夕飯のおかずを百貨店の地下で買って帰ろうという気になったのである。

ミサトは地方から出てきて大学に通い、そのままそこで就職をした。狭くて家賃の高いマンションに一人住まいをしている。独身で、彼氏も今はいない。残業の多い職場にいれば帰宅するのも遅くなりがちで、彼氏がいなくてちょうどいいと彼女は強がっていた。

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ジャンル : 小説・文学
テーマ : 自作小説

[ 2011/02/12 23:56 ] 『マイビターバレンタイン』 | TB(-) | CM(-)

マイビターバレンタイン(2)

パンツスーツに身を包み、社のIDカードを胸から提げているミサトがコピーした書類の束を抱えて、社内の廊下を歩いているときだった。後ろから彼女を追いかけて呼ぶ声がして振り返った。一年下の後輩、サワイタカシだ。

「僕の出した企画書のミス、イワキ先輩が直してくれたんだそうですね。
 すみません。ありがとうございました。」

「別にいいわよ。たまたまチェックしてて気づいただけだもの。」

どうしてこの後輩の名前が、あの苦い思い出の男の子と同じ苗字なんだろうと考えながら、ミサトは素っ気無く答えた。

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[ 2011/02/13 22:51 ] 『マイビターバレンタイン』 | TB(-) | CM(-)

マイビターバレンタイン(3)完

次の日、ミサトは会社に連絡を入れた。昨夜帰宅した後、高熱を出し、今朝になっても下がらず、立ち上がるとフラフラとよろめいて無理もできない状態になったため、休みをとらねばならなかったのである。幸い、ミサトとサワイの企画はもう二人の手を離れて動き出している。何かあっても彼さえいれば、ミサトが今日一日休んだところでしのげるはずだ。

「あ~あ、バカみたい。
 私ったら、一人勝手に夢みたいな期待をして
 元彼のマンションまで行くなんて。
 それで風邪ひいてりゃ世話ないわ。」

誰もいない部屋でミサトは大きな独り言を呟いた。まだ寒気がするし、目を開ければ焦点が定まらず天井が揺れている錯覚に陥る。ベッド脇にペットボトルのスポーツドリンクを置いて水分補給をし、毛布と掛け布団を顎にかかるまでかぶって寝込んでいた。ふと壁にかけたカレンダーが目に入った。ミサトの仕事のスケジュールが簡単に記されている。そして、今日は14日だ。

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[ 2011/02/14 23:56 ] 『マイビターバレンタイン』 | TB(-) | CM(-)